彼との二人分の食費が一日600円でも、私は幸せだった。
どうやってやりくりしようか、今日の見切り品はなにか、私はそれを考えるのをちっとも苦だと思ったことはなかった。
ワンルームの部屋でも私は幸せだった。
だけれども彼は違った。
彼はそれがつらかったのだ。
もちろんそんなことを私に言ったことはなかった。
だけれども、5年経ち、ある程度の名を成した彼はそう言った。
ああ、そうだったんだな・・・
一緒に事業を起こしたが、職員の失態でそれこそ私と彼は血を吐き泥水をすすらされた。
それでも私は逃げなかった。
その私を後になって彼が言った。
「実は逃げると思っていた・・・」
私はそんな状態でもつらくはなかったのだ。
父親が肝臓の病気で入院しても、手術の日も私は仕事をしていた。
それが当然だと思っていた。
それくらい私はクライアントに対する使命を抱えていた。
しかし、彼は変わった。
私は5年前のままだ。
私だけが置いてきぼりにされている。
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