2015年9月30日水曜日

幸せ

私は幸せになりたいだけだった。

彼との二人分の食費が一日600円でも、私は幸せだった。
どうやってやりくりしようか、今日の見切り品はなにか、私はそれを考えるのをちっとも苦だと思ったことはなかった。

ワンルームの部屋でも私は幸せだった。

だけれども彼は違った。

彼はそれがつらかったのだ。

もちろんそんなことを私に言ったことはなかった。
だけれども、5年経ち、ある程度の名を成した彼はそう言った。

ああ、そうだったんだな・・・
一緒に事業を起こしたが、職員の失態でそれこそ私と彼は血を吐き泥水をすすらされた。
それでも私は逃げなかった。
その私を後になって彼が言った。
「実は逃げると思っていた・・・」
私はそんな状態でもつらくはなかったのだ。

父親が肝臓の病気で入院しても、手術の日も私は仕事をしていた。
それが当然だと思っていた。
それくらい私はクライアントに対する使命を抱えていた。

しかし、彼は変わった。

私は5年前のままだ。

私だけが置いてきぼりにされている。


0 件のコメント:

コメントを投稿